【映画㉕】 ウインド・リバー
厳寒の大自然に囲まれたアメリカ中西部ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地“ウインド・リバー”で見つかった少女の凍死体―。遺体の第一発見者であり地元のベテランハンターのコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は案内役として、単身派遣された新人FBI捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)の捜査に協力することに。 ジェーンは慣れない雪山の不安定な気候や隔離されたこの地で多くが未解決事件となる現状を思い知るも、 不審な死の糸口を掴んだコリーと共に捜査を続行する...。
2017年のアメリカ映画で、「ボーダーライン」シリーズのテイラー・シェリダン監督のデビュー作品だそうです。
【ここからネタバレ注意!】
とにかく観終わった後に心にずっしりと重くのしかかる映画でした。
雪しかない地域で、住んでいる人たちは皆生きることに必死で、それでも助け合いながら住んでいる環境下。
都会に住んでいるひとにとっては考えられないような、むき出しの自然、それに立ち向かうストレスによる心の変化、時に暴走し制御しきれなくなった人間の残虐さ。
そんな得体のしれない真実に終始包まれたような映像描写は、とにかく前のめりで見ざるを得ず目が離せませんでした。
「ボーダーライン」シリーズもそうでしたが、重くのしかかるようなBGMと、北野武監督の映画のような独特の間が非常に印象的です。
鮮烈な瞬間が時々訪れますが、それと同じ間合いで日常が流れていきます。
そこが妙にリアルで、変化の前兆を見逃すと、一気に急展開してくるため常にハラハラしっぱなしの作り込みが最高です。
映画のテーマとしてはネイティブアメリカンが年間で行方不明者が多数出ているにもかかわらず、常に人数不明な点や、人種による差別などの社会問題が根底にありますが、それをベースとして人と自然の共存、そこに生まれる人心の変化も、もう一つのテーマだったように思います。
また主役の放ったあるセリフにも惹かれました。
ある少年が放った言葉
「怒りがこみあげて、世界が敵に見える。この感情が分かるか」
というセリフに対し、
「でも俺は感情の方と戦う。世界には勝てない」
どんな環境下でも、自分を制御しなければならない。
できなければいずれ社会や自然に淘汰される。
そんな意味合いを含んだセリフが刺さりました。
そして娘を失った友人にかける言葉
苦しめマーティン。とことん悲しむんだ。共に生きたいのなら。
娘を失って傷心の親に対し「苦しめ」と強く言える確固たる意志。
自分も同じ思いをしたからこそ逃げるのではなく、失った事実を認め苦しみ続けることが、唯一の救いであると説くところに作り物ではない本音があるように感じました。
ひとつひとつの言葉に重みがあり、それでいて現実味があり説得力がある。
あまり明るいテーマではないし、面白おかしい話ではないですが、最後には「なにかがんばってみよう」と前向きになれる素敵な作品でした。